小さくて大きな

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『夏の終わりに線香花火』

でなんか書いてみよー。のやつです。

急遽これを書きたくなって2つになりました。


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かわいいじゃん

弟が言った。


かわいいじゃん

母も言った。


うーん

父は唸る。


うーん

私も唸る。


いい子ですよー


店員が攻めてくる。

全然吠えない子ですし、何より頭がいいんですよ、血統書ももちろんありますよ

止まらない。ここぞとばかりに営業トークだ。


ほらねー、いい子なんだよ!

弟がそれに乗る。


ねー!かわいいでしょ

母もそれにの…乗ってると思う。


うーん

父は唸る。


私も唸りたい。


ここは本来、野球をするためのドームなのだが…今日は犬畜生共のイベントが開かれるということで家族揃って遊びに来たのだ。


しかし、早々に疲れた私と父は観客席で座っていた。


そろそろ帰るために、呼びに戻ろうかと立った所に、母と弟と知らない人と、その人が抱える人形みたいな畜生が来たのだ。


そこからこのやり取りが続き、もう1時間が経とうとしている。


私は疲れたので

ねぇ…これ飼わないと帰れないよ


そう父に告げた。




こうして、家に犬畜生が来た。


ケージという名の柵で囲んだ空間にぶっこまれて、ビクビクしていたのは1日だけだった。


そう、この犬畜生、元気いっぱいもりもり太郎くんだったのだ。


こんなに小さい身体のどこにその体力があるのか。どこにそのパワーがあるのか。柵を飛び越えるんじゃないかというほどジャンプし…吠える。

おい店員、吠えない子じゃなかったのかよ。

ワンワンじゃない、キャン!キャン!!だ。耳が割れる。いや、頭が割れるというべきか。


ただ、不思議なもので人はどうやら環境の変化に対応していくらしい。慣れてしまった。



あんなに小さかった犬畜生は、気づくと柵を飛び越えるパワーと大きさになっていた。もう犬畜生を縛るものは無くなっていた。


そして、犬畜生が犬畜生である所以、そう、そこら中でマーキングしやがるのだ。

都度、バチボコに叱られるのだが、、、


私はわかる。こいつわかってやっている。


置いて行かれた時、おやつをくれない時、散歩に行かせてもらえなかった時、相手にしてもらえない時、大概そんな時だ。


もちろん、私の部屋でもする。むしろ敢えてしに来ている。私が犬畜生と呼ぶようにこいつも私の事を人畜生として見ている節を感じる。


世話をすると言っていた母も弟は、予想通りしなくなり、可愛がる担当になって、


結局、父がしつけと、ついでにいくつかの芸まで仕込んでいた。


私は噛まれる担当だ。


よーしよs…ほら、言い切る前に手が血だらけだ。


蹴っ飛ばしてやろうか犬畜生め。


小さいくせに態度だけは大きい。



そんな中、私は進学の為に東京へ。

さらば犬畜生。さらば噛み跡。さらばマーキング。

お盆や年越しには帰ってくるからそんな寂しそうな顔…してねぇな。



とまぁ、そんなこんなで年越しに実家に戻ると、なんか増えていた。

犬畜生が2匹になっていた。


どうやら、新しい方は近所のブリーダーさんのとこを脱走して来たらしい。

曰く、『その子は後ろの片足が駄目だから処分する予定だよ、欲しいならあげるよ。諸々はあんたんとこでやるならね。』

との事で貰ってきたらしい。たしかに後ろ足がおかしい。3本の足でひょっこひょっこ動いてる。


犬畜生1は、相変わらず元気よく出迎えてくれる。やっぱり血だらけになる。

犬畜生2は、おとなしいけど、遊ぶ時は全力だ。

1とか2は言い辛いな。2の方は黒いから黒畜生にしよう。


実家に帰ってもやる事が無いので観察してみると、黒畜生はおとなしいんじゃなくて、あざとかった。犬畜生にギャンギャンに吠えさせ、自分は黙っている事で、さも私は良い子ですよ。とアピールしている。

さらには、こういうのが欲しいんだよね?をわかっているかのような動きで擦り寄って来る。

さすが劣悪な環境で、明日を生きる為に必死だっただけの事はある。

まぁ、わいわいがやがや、していてなによりであった。

それから、たまに帰っては犬畜生の相手をしていた。



数年後の年越しに帰省した際、なんかまた増えていた。

今度は白い畜生だった。白畜生にしよう。


どうやらペットショップに行った際に目があってしまったようで。

曰く、『この子、どうしても売れ残っちゃってぇ、腰が悪いみたいなんですよねぇ、だから処分価格ということでぇ、こちらの価格なんですぅ』

という事を聞いて飼うことにしたらしい。たしかに腹辺りを触ると嫌がるし、逃げる。


この白畜生、驚くほどに頭が悪い。いや、畜生共に『かしこさ』なんて項目は無いろうと思ってたけど、犬畜生と黒畜生は、ちゃんと言葉を理解してるし理解しようとするのが表情から読み取れる。

けど、この白畜生、まじで聞かないし、理解しない。食い物第一主義過ぎる。

まさかおやつを上げるときに、指ごと持っいてかれるとは思わなかった。



畜生共にも個性があるんだなぁと感じつつまた数年。

母から連絡が来た。


どうやら犬畜生が『てんかん』になってしまったようだ。

曰く、『お医者さんで薬もらって収まってるけどどうなるかわかんない』

との事だったので顔くらいみてやるかと帰った。


よぉ、犬畜生、お前、やばいらしいn…

手が血だらけになった。元気いっぱいもりもり太郎くんじゃねぇか。

興奮させないで!と母から怒られたが、全然元気そうだった。



そして数年。

まだまだ元気であった。

相変わらず油断すると手が血だらけになる。

と思っていたのだが、歳には勝てないのか、はたまた停戦協定でも結ぼうというのか、元気もりもりだけど元気もりもりでは無くなっていた。

噛み跡が残らなかった。

それでも散歩には行きたがるし他2匹の畜生もいるのでなんだかんだ楽しそうであった。



それからちょっとして、コロナが流行り出し、いろいろあって仕事を辞めた。

実家に帰ると白と黒の畜生が出迎えてくれる。犬畜生は外を見ている。声をかける、尻尾だけ反応する。

相変わらずのやつだった。しょうがないので帰ってきたぞーとご挨拶に撫でてやr…

ちゃんと噛み付いてきたので元気そうだ。


少し痩せた感じもある。オムツもつけている。

考えてみると、もう15年になる。そりゃ老人になっちゃうか、老犬か。

そんなこんなで、私はこれまで、お仕事やお仕事やお仕事を頑張った自分へのご褒美に1年くらい引きこもりをしてやろうと意気込んでいた。


しかし、世の中やはり金、なので結局はあれやこれやと小銭を稼ぐ毎日なってしまっていた。



そんな雑に生きて数年、偶然が重なって大阪で働く事になった。

さらば畜生共。さらば飯やり。さらばお散歩。



そして、半年ほど経った頃

母から連絡が来た。


どうやら犬畜生の体調が悪くなったらしい。

曰く、『腎不全で70%くらい機能してないみたいで身体中に影響が出ちゃってるみたい』

との事だった。


私は知っている。母が話を大げさに言う事を。

前回の『てんかん』の時もそうだった。あれだけ騒いだのに元気もりもり太郎くんで私の手は血だらけになった。



そう思っていた2日後、木曜日の夜に

父から連絡が来た。


曰く、『お医者さんにぶっちゃけどう?って聞いたら持って1週間だって』

との事だった。


私は知っている。父も話を大げさに言う事を。なぜならコロナ禍で仕事を辞めて帰った理由の1つに

『母の心臓病が悪化して1年持たないって医者に言われた』

という父から連絡があったというものがある。

母は今も相変わらず元気だ。

まぁ、でも土曜日は夜まで遊ぶ予定があるから日曜日に顔だけ見に帰るかと思い、その旨だけ伝えた。


土曜日、意外と早めの解散であった。もっと遅くなるかと思ってたけど、夜ご飯を食べに行けるくらいだ。

…終電使えばぎり実家に帰れるか…?

いや、そこまでする事でもないだろ。始発で充分だ。



朝。眠い。始発。


なんとか新感線に乗る。寝よう。



ゴトッ。



スマホを落としたらしい。目が覚めた。

画面を見ると電話が鳴っていたようでマナーモードだったから震えて落ちてしまったらしい。


とりあえずメッセージを見る。父からだ。

『7時前から、呼吸が荒くなったよ。何時頃着きそう?』

胸が苦しくなった気がした。

今日も仕事のある父が、わざわざ送ってくると言う事は余程の事かもしれない。


まだ1時間はかかる。


返信は無い。



次の乗り換えで30分後には着く。



返信が来ないって事は、結局落ち着いて、二度寝したんだろう。




駅に着いた。


メッセージが来る。着いた事を伝えようと開く。





『今、虹の橋、渡っちゃったよ』




…え?




とりあえず急ぐ。

早歩きだ。

嘘だ。走っている。




またメッセージが来る。



『犬との十戒、最後の約束、母さんと守ったよ』



ああ。足が止まりそうになる。


もう着く。鍵、開けといて。


それだけ送り、走った。


久し振りに走った。大した距離じゃないのに心臓が痛い。




玄関を開け、リビングの扉を開ける。



犬畜生が寝ていた。



畜生共が使うかもしれないと買ってきて、誰も使わず洗濯物置きにされていた、犬用の小さなベッドの上で寝ていた。


撫でてやる。


温かい。暖かい。いつもよりは低い体温なのかもしれないけど、いつも通りの元気もりもり太郎くんで噛み付いてくるんじゃないかと思わせる。



けど、


どれだけ撫でても、どれだけ触っても、どれだけ嫌がらせをしようとも、反応なんて無かった。


ああ。ダメだ。犬畜生め。



どうやら、ここ数日毎日げろげろで、面倒を見ていた母もまともに眠られないほどだったようで。

曰く、『急に呼吸が荒くなって、身体もどんどん苦しそうになって、激しくなって、、、抱きかかえてあげたら安心したのか、落ち着いてそのまま…。』

ということだったらしい。



犬畜生のくせに。


柵も越えられなかったくせに。


吠えないと思わせてくっそ吠えたくせに。


そこら中でマーキングしたくせに。


噛み跡付けまくったくせに。


くだらないし、嫌な記憶ばかりなのに、

全部しっかりと残っている。


犬畜生のくせに。



この涙はなんだろうな。

悲しいからか。


それとも

昨日の夜帰らなかったからか。


ごめん。


考えてみれば、最初の連絡の時、腎不全で70%が機能してないなら、もうよほど無理してたんだよね。


ごめん。


ごめんしか出てこない。


わかってる。そんな事、なにも気にしてないし、考えてないって事も。わかってる。犬畜生なんだから。わかってる。


なのに。

止まらない。


少し離れる。


思考がぐちゃぐちゃだ。




反応の無い犬畜生に他の畜生共が近づく。



吠える。



吠えている。


犬畜生に向かって


あのあざといだけの黒畜生が吠えている。


あの飯の事しか頭に無い白畜生が吠えている。





無理だ。




ちくしょう。





あいつは


あの子は


小さくて、大きかった。


止まらない。


小さかったくせに。


全然こんな気持ち無かったのに。


なんで今、こんなに。





止めどなく溢れ出し






弾け続けた。







『夏の終わりに線香花火』

どでかぬれの台本置き場

サクッと短め台本多めです。

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