クズ兄貴の実力をボクだけが知っている(ver2000~)

【クズ兄貴の実力をボクだけが知っている】

どでかぬれ


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「なんじゃこりぁあああああ!!」



突然響く叫び声。ボクはため息を吐き、そこへ向かう。

「兄さん、どうしたんですか?」

ベッドの上で驚愕の表情を浮かべる兄と目が合う。

「は…?ぇ?ルカニス?」

「そうですが」

「おい、おいおい、嘘だろ!?まさかそんなことないよな」

ベッドから跳ね起き鏡に向かう兄。相変わらずうるさい。

「はぁあああ!?俺、ダリアスじゃねぇかよぉおお」

やはりうるさい。

一体どうして…等とぶつぶつ呟いている。

「また記憶喪失ごっこですか?もう会議が始まるので急いで準備してくださいね。では。」

会議と言っても形だけで重役達の懐をどう増やすか話し合うだけの場。父が亡くなってから腐敗の一途をたどるばかりだ。

「ま、待つんだ、弟よ!」

「次のを用意しろですか?…昨日新しい子を連れてきたのに、もうソレですか」

この兄は、四六時中、女と遊んでいる。いや、女で遊んでいる。…そして満足できないと、そこで倒れているナニカのようにされる。

「…このキャラって、そうだったぁ。コイツまじでクズやん。」

「は?何言ってるんですか?」

「いやいや、なんでもない!ところで、今はいつだったかな?ははは」

明らかに様子のおかしいクズ兄貴。

「いつって、秋の月第4週赤の日ですが?」

「そうかぁ、ちなみに何年?」

「神聖歴219年でーーーー」

「219!?219の秋の月!?一年も無いじゃねぇか!!」

なんだこの兄は。本当にめんどくさい。

「…弟よ。俺に戦い方を教えてくれないか?」

耳を疑った。あの兄が教えを乞うことも、まして戦い方を、だなんて…。

「本気なんだ、頼む!!」

今度は更生ごっこか?ようやく領民達からの不満に気付いたのか?だけど、もう遅い。クーデターの準備が進んでるなんて噂も聞く。

まぁ、ボクは半年後に留学という名の国外へ逃げようと思っているので関係ない。

「そうですか、でしたら剣や魔法の先生を呼びましょう。」



半年が過ぎた。



意外にもクズ兄貴は努力を続けていた。3日で根をあげると思っていたのに。

でも結局、上が腐り切ってるのでもうダメだろう。明日にはここを出て行くのでどうでもいいのだが。


「ダメだ。」

「は?」

「明日の出発をやめろ。」

何を言ってるんだ?と思ったが…今まで見た事無いほどの気迫と強い意志に渋々了承した。



翌日出発した馬車は


盗賊に襲われた。


兄が止めていなければボクは…。


それから数日後、兄から声をかけられた。


「今から東の森に行かないか?」

相変わらず唐突だ。

「何しに行くんですか?」

「…スタンピードが起こる。」

「はい?」

所謂、魔物の大行進。原因は様々だが東の森にはダンジョンも無ければ、大量発生して困る魔物も生息していない。

「ジジイ共に言ったところで一蹴されるだけだ。」

またくだらないことを。と思ったが先日の件もある。

「仮に発生するとして、どうするつもりなんです?」

「俺が止める。討ちもらしたやつを頼む。」

無茶苦茶言ってる。が…そういえば、いつも意味不明だった。だから、付き合ってみてもいいかもしれないと思い向かった。


偶然にも森へ入った者は

「まだ居ないようです。」

「それはよかっ…ッ!!」

土煙を上げながら大量の魔物がこちらへ迫る。

「まさか兄さんの言った通りの事が起こる、なん、て…え?」

この森に生息するはずの無い魔物達が。

「そんな!?なぜ!!」

「おおー」

「これは無理です。急いで報告を」

「まぁまぁ。えっと、ふぁいあーぼーる」

ファイヤーボール?あれが?頭上に現れた炎の塊はどう見ても上級魔法クラスの大きさをしていた。ヘタしたらそれ以上だ。

「えーい」

気の抜けた声と共に放たれた自称ファイヤーボールは魔物の群れに向かって飛び、大爆発を引き起こした。

「あ、あの数を…」

たった1度の魔法で吹き飛ばし、終わらせた。

「ど、どういうことですか!?こんな一瞬でおわーーーー」

りでは無かった。ズシンズシンと歩みを止めずに進んでくる大型の魔物が居た。

「耐えられちゃったかぁ。」

「あれはグラントロル…!?」

「よし、もっかい、ふぁいーーー」

「待ってください兄さん!これ以上森を燃やすのは!!」

「…ん?そうか。なら、すとーんばれっとー!」

いやいやいやいや、ストーンバレットは小石を飛ばす魔法であって地面から岩を生やして突き刺すのは違う魔法なんですが!?

「よし、どうだ?」

見事に左半身を失ったグラントロルだったが

「こいつ身体、生えてくるのか!?」

「…核を潰さないと倒せないという話は本当だったみたいですね」

「核、ねぇ…。あれか。」

なんか目が光ってるんですけど!?

「うーん、いいや、ナントカカントカー!そりゃ!!」

「なんて!?」

剣を投げたのか…?グラントロルの右肩から胸かけて無くなっていた。そしてその先には兄の剣が突き刺さった大きな魔核が。

「嘘でしょ…?」

ミシリという音が聞こえ魔核は見事に崩れた。そして

「…お、俺の剣がぁあああ」

只の剣が耐えられるはずも無く粉々になっていた。

こうしてスタンピードは終わった。問題は死体の山を…は?

「よっと。ん?どした?」

目の前から消えた。

「はぁ!?まさか収納魔法!?」

「おう」

これは収納魔法なんてレベルでは無さそうだ。


少しすると、騒ぎを聞きつけた人々が集まって来た。

「これは何事ですか!!」

どう説明しようか…

「俺が新しい魔導具の試し撃ちをしてたんだ。」

兄が戻ってきて、適当な事を言った。

「はぁ…またダリアス様ですか。東の森は資源の宝庫なのですよ。」

「めんごめんご!ほら帰ろうぜ!!」

帰宅後、重役達に強く叱責されていた兄。使えないクズだという嘲笑も見てとれた。

だが

そのクズ兄貴の実力をボクだけが知っている。

ここを離れるのはもう少しだけ考えてみようと思う。

もしかすると、もしかするかもしれないから。


ーーーーーー

おしまい


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